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题目都好难捏,还是不要赌了:o
顺便,B组的第2张QM好大.....
8桢..320.180分辨率..
貌似过大了点[/KH]
本期暂时不参与了:o 人家想过完耶诞在考虑换签名..
借用下..
第八章 虚無の担い手たち
二週間にも及ぶ諸国会議は、さほど揉《も》めずに終了した。
結果、トリステインとゲルマニアは|アル《白》|ビ《の》|オン《国》から奪《うば》った広大な領土を、その版図に加えることになった。
残りの土地は、トリステインとゲルマニァ、およびガリア三国が共同統治し、折を見て王権を復活させることで話はまとまった。そのため首都ロンディニウムを含む一帯が、共同統治領として三ヵ国で運営される。
そこの初代代王として、トリステインの老貴族マルシヤック公爵が推薦された。老齢の彼は、野心とはほど遠い温厚な人物であった。内政の手腕に優れた彼を置いて、荒れたアルビオンを再興しようというのである。ゲルマニアとガリアからも、それぞれの利益を代表する副王が選出され、補佐役として置かれることになった。
そして、会議に参加した四ヵ国において、ハルケギニアの王権を守り、共和制の勃興《ぼっこう》を封じ込めるべく、四ヵ国の〝王権同盟?が発表された。
同盟に参加した王国内において新教徒および共和主義者が叛旗《はんき 》を翻《ひるがえ》した場合、他《ほか》の三つの国の軍事介入を仰ぐことのできる特殊な同盟であった。これにより、新たに反乱を企てようとするものたちは、四つの王軍を相手にせねばならないのであった。
この同盟の締結をもって、諸国会議は閉会となった。
明日は国に帰ろうという晩……。
ハヴィランド宮殿に用意された部屋で、アンリエッタは目の前の書類に、必死になって目を通していた。隣には枢機卿《すうききょう》のマザリーニの姿が見える。
「陛下、そろそろ御休みになられては……。このところ、ほとんど寝ておられぬでしょう」
諸国会議が始まってからというもの、アンリエッタはほぼ不眠不休で会議に打ち込んだ。トリステインの国益のために、貧欲《どんよく》に発言した。アルブレヒト三世などは、終《しま》いにあきれて「嫁に貰《もら》わんで正解だわい」と、小声でつぶやくほど。
「国に帰っても、仕事は山積みです。できるだけ片付けておきたいのです」
「といってもですな、もう十二時をまわっておりますぞ」
「先に休んでください」
しかし、女王を差し置いて臣下が床につくわけにもいかない。
「そのような目録など、書記官に任せれば……」
「すべてに目を通しておきたいのです。そうでなければ、こうして雲の上までやってきた甲斐《か い 》がありませんわ」
マザリーニ[#底本「マザリーに」]はため息をついた。若さゆえか、アンリエッタには極端なところがあって、それがどうにも心配なのである。しかし……、マザリーニは目を細めてアンリエッタを見つめた。幼子の頃《ころ》から見守りつづけた姫の危うさと、成長を、いつまでも見届けたかった。
やる気を出している生徒に、マザリーニは講義を行うべく、咳《せき》払いをした。
「陛下、重ねて申し上げるが、ガリアの動向には注意が必要ですぞ」
「ええ」
書類から顔を離さずに、アンリエッタは頷《うなず》いた。
「こたびの戦を終わらせたのは……、正直申し上げてガリアです。しかしながら、彼らの要求は微々たるもの……。港一つを欲しがったのみです。まるで、『欲しいものはすでに手に入れた』と言わんばかりの態度ですな」
直轄統治領として、トリステインもゲルマニアも相当の土地を手に入れたというのに、ガリアは領土を欲しがらなかったのである。マザリーニはそんな無欲なガリアに警戒心を抱いているのであった。
「そうですね」
とアンリエッタは頷いた。
「ふぁあ」と、マザリーニは大きなあくびを一つ、かました。
「眠そうですわね。おやすみください」
「いえ……、陛下を差し置いて床につくわけには参りませぬ」
アンリエッタは微笑《ほほえ》むと、書類を片付け始めた。
「おやすみになるのですか?」
「ええ。あなたの健康を害するわけにはいきませんから」
「わたくしの健康ばかりではありませぬ。寝るのも仕事のうちですぞ」
「はい」と素直にアンリエッタは頷く。
では……、と安心したようにマザリーニは退出していった。アンリエッタは少女の仕草でベッドに倒れこむ。そして、放心したようにつぶやいた。
「疲れた……」
このまま泥のように眠ってしまいそうだ。でも、その前に確かめたいことがあった。このところ毎日、寝る前の習慣になっている行為である。
アンリエッタは枕《まくら》もとの紐《ひも》を引いた。
すぐに……、ドアの前に女官がやってくる。
「お呼びでございますか。陛下」
「アニエスは、戻りましたか?」
「銃士隊隊長、アニエスさまは、いまだお戻りになっておりません」
「わかりました。ありがとう」
女官が去っていく足音が聞こえたあと、アンリエッタはせつなげに目を細めた。まるで子供のように爪《つめ》を噛《か》む。首をかしげ、頬《ほお》を枕《まくら》に埋《うず》め、アンリエッタは目をつむった。
ちょうどその頃《ころ》、ハヴィランド宮殿の別の客間では……。
部屋の主が燃え盛る暖炉《だんろ 》を背に、片肘《かたひじ》をソファの肘掛に置き、興味深そうに客を見つめていた。
「で、ロマリアの特命大使どのが、この〝ガリア無能王?になんの用だね?」
ジョゼフは、含んだ笑みを浮かべながら、『教皇よりの親書』を携えてやってきたロマリアの特命大使を見下ろした。
金髪に目立つオッドアイ……、ジュリオであった。
床に片膝《かたひざ》をついたまま、彼は答えた。
「無能王とは……、謙遜《けんそん》が過ぎると申すもの」
「謙遜などではない。事実国民も、役人も、議会も、貴族も、このわたしを〝無能?と陰であざ笑っている。内政をさせれば国が傾き、外交をさせれば国を誤ると噂《うわさ》し合っている。おもちゃを与えておけばよいのだと、そのようにナメておる」
「陛下は戦争を終わらせました。偉大なる王として、歴史に名を残すでありましょう」
「世辞《せ じ 》はよい。歴史などに興味はない」
ジョゼフは、テーブルに置かれたオルゴールを手にとった。古ぼけたボロボロのオルゴールである。茶色くくすみ、ニスは完全にはげていた。所々傷も見える。しかしジョゼフはそれを、愛《いと》しそうに撫《な》でた。
「骨董品《こっとうひん》ですか?」
「ああ。アルビオン王家に伝わる、〝始祖のオルゴール?と呼ばれる逸品だ」
「始祖の秘宝ですね」
ジョゼフの目が光った。
「そうだ」
「ロマリア、ガリア、トリステイン、そしてアルビオン……。各王家には、それぞれ始祖の秘宝と呼ばれるものが存在します」
「それがどうした? ハルケギニアの民なら、誰《だれ》もが知っていることだ」
「そして四系統と呼ばれる指輪……」
「これのことか?」
ジョゼフは指に嵌《は》まった指輪をジュリオに見せた。
「さようでございます」
「で、それがどうした? 余はそろそろ眠いのだ。何せ、連日の会議だったからな。欲の皮の突っ張った小娘と、分をわきまえぬ田舎者の相手で疲れているのだ。手短に願いたい」
「恐れながら、陛下のお好きでない、歴史の話でございます。それら秘宝は、始祖の意志と血が込められていると、ロマリアでは言われておりました。そして最近になって……、とある〝予言?が発掘されたのです」
ジョゼフはジュリオを、試すように見つめた。美しい、という形容が、これほど陳腐に思える顔立ちもあるまい。何か別の言葉を新たに作るべき、と詩人に思わせるような顔立ち……。そしてその左右色の違う瞳《ひとみ》には、強い光が宿っている。
こやつ……、ジュリオ?チェザーレとかいうふざけた名前の神官……、諸国会議に出してきた能無し大使とは、できが違う。ロマリアにとっては、こちらが本命の外交なのだろう。
「ふむ。どんな予言なのだ?」
「始祖の力は強大でありました。彼はその強大な己の力を四つに分け、秘宝と指輪にたくしました。また、それを担うべき者も、等しく〝四つ?に分けたのです。その上で、始祖はこう告げました。『四の秘宝、四の指輪、四の使い魔、四の担い手……、四つの四が集いしとき、我の虚無は目覚めん』と」
「なんだそれは! つまり、四人の〝虚無?の担い手が存在すると! そういうわけか!」
ジョゼフは大声で笑った。
「バカも休み休み言うんだな! 四人も担い手がいたら、大変ではないか! 始祖の〝虚無?を扱えるものが四人だと? これは傑作だ!」
「嘘《うそ》ではありません。ロマリアは現実として、それらを集めております。担い手も二人、確認しております」
「ほう、それは誰《だれ》だ?」
「それは申せません。陛下の協力が仰げると確信したときのみ、お知らせすることといたしましょう」
「協力といっても、どうすればよいのだ?」
「なに、簡単です。虚無の担い手を見つけ出し次第、わが国に知らせて欲しいのです。ご安心ください。わが国には野心のかけらもありません。ただ、真の意味で始祖の御心《みこころ》に添いたい……、その一心のみでございます。本日締結された王権同盟……、あの同盟が、三つの王国、そして一つの皇国を正しく始祖の真意へと導く手助けになることを、祈っております」
「さて……」とジョゼフは青い美髯《び せん》をゆらし、首を振った。
「虚無の担い手もなにも……、余は何も知らぬ。なにせ〝無能王?だからな。臣下どもときたら、肝心なことは何一つ余に知らせてはくれんのだよ」
「虚無の担い手を見つけ出す方法がございます。これはと思った者に、四の指輪を嵌《は》めさせ、そのオルゴールの蓋《ふた》をおあけください。担い手であれば、その者の耳には、始祖の調べが聞こえることでしょう」
ジョゼフは頷《うなず》いた。
「了解した。機会あらば試してみよう」
「では……」とジュリオは立ち上がった。
「待たれよ」
「何か?」
「どうせなら、ロマリアが知りし真実を、すべて語ってはいかんかね?」
「お疲れのようですから」
「なに、長い夜の暇つぶしには、もってこいの伽《とぎ》だ」
「申し訳ありません。先ほど申し上げたように、陛下の協力が仰げるときにのみ、開陳の許可を与えられております」
「お若いくせに、教皇陛下は食えんな」
「人一倍、信仰心が厚いお方なのです。したがって、他者の信仰にも相応の程度を要求するのです」
「そう言われると、なんだ、始祖と神への信仰に目覚めそうな気分だよ」
では……、とジュリオは微笑《ほほえ》みを浮かべた。
「陛下の興味がひけるような話題を一つ」
「よかろう」
「この世のすべての物質は、小さな粒よりできております。砂よりも、水滴よりも小さな粒です。解明されし我らの最新の神学では、四系統は、それらに影響を与える呪文《じゅもん》、と定義されております」
「ふむ」
「それらの粒は、さらなる小さき粒により構成されています。〝虚無?はそのさらなる小さな粒に影響を与える、と言われているのです」
「それがどうした?」
「始祖の御心《みこころ》に添い、〝四の四?を集め……、それらが完全に解放されし場合……、つまりは〝始祖の虚無?が、完全に蘇《よみがえ》った場合、虚無魔法は恐ろしき効果を得ることでしょう。〝さらに小さき粒?への大なる影響は、おそらくはこの世の理《ことわり》をも捩《ね》じ曲げるでありましょう。事実、そのような呪文の存在が〝予言?に書かれています」
「どんな呪文なのだ?」
ジュリオは一礼した。
「これ以上、陛下のお休みを邪魔するわけには参りません」
「神官のくせに、布教に熱心ではないようだな」
そのまま退出しようとしたジュリオを、ジョゼフは再び呼び止めた。
「待ちたまえ」
「始祖と神への真の信仰に目覚められましたか?」
「その信仰に関する質問だ。きみたちロマリアとあの忌々《いまいま》しいレコン?キスタ……、その思想にどのような違いがあるのだ?」
ジョゼフは意味深げな笑みを浮かべて、神官に問うた。
「レコン?キスタは、所詮《しょせん》烏合《う ごう》の衆でした。王さまになりたがった、子供の集まりに過ぎません。あいつらは、『聖地の回復』という題目を、己の結束に利用しただけです。誰《だれ》も本気で、エルフたちから聖地を取り返そうとは、思っておりませんでした」
「…………」
「我らロマリアは聖地を回復〝する?。他《ほか》に何も考えておりませぬ」
同類を見る目で、ジョゼフはロマリアの特命大使を見つめた。
「聖地を奪いしエルフの操る強力な〝先住魔法?に対抗するには、〝始祖の虚無?しかありませぬ。で、あるならば、我らはそれを使う……」
独り言のようにそうつぶやき、退出しようとするジュリオの背に向け、楽しそうな声でジョゼフは言った。
「狂ってる」
左右色の違う、〝月目?を輝かせ、嬉《うれ》しげにジュリオはこたえた。
「信仰とは、そうしたものです」
ジュリオが去っていたあと、ジョゼフはテーブルから人形を取り上げた。黒い髪の、細い女性のかたちをした人形である。しばらくそれを愛《いと》しそうに撫《な》でまわしたあと、ジョゼフは口を近づけた。
「聞いていたか? 余の可愛《かわい》い女神《ミューズ》。そうそうか! きちんと聞いていたか! ロマリアめ、我らが知りし真実を、余すことなく知っておったわ。何千年も始祖の尻尾《しっぽ 》を追いかけてきた連中だ。やはり知識の量では敵《かな》わぬな!」
ジョゼフは人形に耳を近づけた。
「そうとも! 余のミューズ、お前の言うとおりだ! あやつらはなに、情報はあっても道具はない。はは、この対局、余の優位は動かぬわ。土のルビー、始祖の香炉《こうろ 》、そして始祖のオルゴール……、余は三つ持っておる。ああ、トリステインも三つ……、しかしあいつらは情報を持たぬ。〝予言?に関する情報を持っていたら、アンリエッタが、アルビオン王家の秘宝たる始祖のオルゴールを気にせぬはずはないからな。あの小娘ときたら、金と土地にしか興味がないようだ。はは、救えぬ愚かさよ! つまり、情報と道具、そろえつつあるのは余だ。他の誰でもない、余だ」
ジョゼフはそこで口をつぐんだ。
「なに? そうか! トリステインの担い手がこのアルビオンに? しかも単独だと? まるで調理を待つ鶏《にわとり》ではないか! さっそくかかれ。始祖の祈祷書《き とうしょ》、そして水のルビーを手に入れるのだ。ロマリアの狸《たぬき》どもが、どこまで掴《つか》んでいるかわからぬからな。急ぐのだぞ」
人形を通じて使い魔に命令を与えると、ジョゼフはソファに深々と座った。
今宵《こ よい》はよく眠れそうだ。
ジョゼフはテーブルの上に置かれた、始祖のオルゴールの蓋《ふた》を開いた。
そして……、目をつむる。
しばらくそうしていると、寝室に通じる扉が開いた。しどけない寝巻き姿のモリエール夫人が現れた。
「陛下、お客さまはお帰りになられましたか?」
「ああ」
「こんな夜更けに無粋なかた! わたくし、神官なんて大嫌い! あいつらときたら、始祖と神への信仰さえあれば、恋人たちの時間を邪魔してもかまわないと思っているのですわ!」
モリエール夫人はジョゼフの首に腕を回した。艶《なまめ》かしい手つきで、恋人の美髯《び せん》を撫《な》で上げる。
「ねえ陛下。よろしくて?」
「なんだね」
「いつも聞いてらっしゃるそのオルゴール……。壊れているのでしょう? まったく何も聞こえませんわ。細工師を呼んで直させましょうか? わたくし、いつも宝石を仕立てさせている、よい腕の細工師を知っておりますの。さあほら、このネックレスをごらんになってくださいまし。そのものときたら、実に器用で……」
モリエール夫人のおしゃべりを、うるさそうにジョゼフは手を振って制した。
「美しき調べの鑑賞の邪魔だ。黙っておれ」
「……でも、わたくしには」
「余には聞こえるのだ」
その指に……、鮮やかな茶に色づく、〝土?のルビーが光っていた。
ルイズとシエスタがロサイスについたのは、|二月《ハガルの月》の第三週、エオローの週は第四曜日、ラーグの曜日の夕方だった。
普段より、倍の時間がかかってしまったのだ。
アルビオン大陸とハルケギニアの間の船便は、行き交う人々で溢《あふ》れかえっていた。ラ?ロシェールの船着場にはアルビオンへ向かう人々で長蛇の列ができていた。
女王陛下のお墨付きといえど、そんな風に混雑を極めた民間船には通用しない。
そんなわけで、ルイズたちがなんとか軍船の定期便に割り込み、ロサイスに到着する頃《ころ》には、一週間が過ぎてしまっていた。
アルビオンへ到着したルイズたちは、再びあきれ返った。
港町ロサイスの混雑はラ?ロシェールの比ではなかったからだ。
戦乱で荒れたアルビオンに物売りにきた商人、一山当てようと目論《もくろ 》む山師、政府の役人、戦争で会えなかった親戚《しんせき》を訪ねる人々……、など、ハルケギニア中からやってきた人間が溢《あふ》れ、大変な混雑を呈していたのである。
「こりゃ大変だわ」
鉄塔のような船着場から下りてきたルイズはため息混じりにつぶやいた。船着場から、工廠《こうしょう》や司令部が並ぶ市街地までの道は、さながらハルケギニアの博覧会だった。
道端には物売りが溢れ、そこかしこに名前が書かれた木の看板を持った人々が立っている。
「なんでしょう、あの名前」
魔法学院のメイド服からエプロンをとってコートを羽織《は お 》り、帽子をかぶった、いかにも慌《あわ》ててとんできましたという格好のシエスタが、疑問を口にした。彼女は大きなズタ袋を背負っている。そこには旅に必要なものが、これでもかと詰め込まれているのであった。
「戦で行方《ゆくえ》不明になった人を捜しているのよ」
哀《かな》しい声で、ルイズが言った。いつもの魔法学院の制服だが、やはり大きな革のリュックを背負っている。
「見つかるかしら……、サイトさん」
手がかりは、ルイズに与えられた命令書の文面だけだった。たしかそこには、こう書かれていた。
『ロサイス北東から五十リーグ離れた丘で、敵を足止めせよ』
行方不明になった才人《さいと 》について、軍に問い合わせてみたが、なんらの手がかりも得られなかった。アンリエッタに会おうと思ったが、王宮にはいなかった。どうやら会議のためにこのアルビオンへ来ているらしい。
「ま、結局頼りになるのは自分たちだけってわけね」
「でも、この様子じゃ、馬も借りられませんわね」
人ごみを見てシエスタが言った。
「足で行くのよ。歩けない距離じゃないわ」
そう言って歩き出したが……、ルイズは地面にへたり込んだ。
「あう……」
重い荷物を抱えて、ここまでやってきたので、身体《からだ》が悲鳴をあげているのであった。
「情けないわ」
「船の上では立ちっぱなしでしたし、しかたありませんわ。もう夜だし、今日はここで一泊して明日、向かいましょう」
「あなた、体力あるのね」
ルイズはシエスタの背負ったズタ袋を見て言った。ルイズが背負ったリュックの三倍はある大きさである。そんな荷物を背負って、けろっとしているのであった。
「そりゃ田舎育ちですから。このぐらい、なんてことありませんわ」
とシエスタは屈託《くったく》なく言った。
もちろん、宿など借りられるわけもなかった。宿にあぶれた人たちが集まる空き地に向かい、そこに布を広げて眠ることになった。どこかで見たことのある空き地だと思ったら、ガリア艦隊が吹き飛ばした司令部の前庭であった。砲撃で崩れ落ちた赤レンガが痛々しい。
しかし、人間はたくましいもので、そんな恐ろしいことがあったのにもかかわらず、そこここに天幕を設け、寝泊まりしている。中には拾ってきたレンガを『終戦記念レンガ』と称して売っているものまでいた。
シエスタは袋の中から布を取り出すと、てきぱきとテントを作り始めた。棒を立てて、布を立てる。あっという間に二人が寝られるスペースができあがる。
あっけに取られて見ていると、次にレンガを集めてきて、即席のかまどを組み上げた。ズタ袋からごそごそと鍋《なべ》を取り出し、そこでシチューを作り始めた。
できあがると、木のおわんによそってルイズに手渡す。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
差し出されたシチューを、怪訝《け げん》な顔してルイズは見つめた。見たことのない色のシチューである。どんよりと、山菜やら、肉やらがよどみ、独特の香りが漂う。
心配そうな顔して、ルイズが中を覗《のぞ》き込んでいると……。
「大丈夫ですよ。わたしの村の郷土料理でヨシェナヴェっていうんです」
「ヨシェナヴェ?」
「ええ。ひいおじいちゃんが、作ってくれた料理なんです」
「へええ」
ルイズは恐る恐る、一口すすってみた。
「おいしい!」
「えへ。お口に合ってよかったです」
それからシエスタは、ぽろっとつぶやいた。
「わたしのひいおじいちゃん、サイトさんと同じ国から来たんですって」
ルイズは目を丸くした。
「そうだったの?」
「ええ。あの……、〝竜の羽衣?に乗って、この世界にやってきたんです。今から六十年も前に……」
「そう」
ルイズはシエスタと才人《さいと 》のそんな意外なつながりに、ちょっと驚いた。
「知らなかったんですか?」
こくりと、ルイズは頷《うなず》いた。
するとシエスタは、にんまりと笑った。
「なによその笑み」
「一個、勝ち。えへへへへ」
「勝ちってなによ! ねえ!」
身を乗り出したルイズに、シエスタは妙な抑揚をつけて歌い始めた。
「ひいおじいちゃんと恋人、同じ国? 同じ国? 同じ国?」
「誰《だれ》が恋人なのよッ! ねえ!」
ルイズが身を乗り出して怒鳴ると、シエスタは勝ち誇った声で言った。
「キスしましたもん」
「な、んなんですってぇ?」
「それもいっぱい」
ルイズはぐっと拳《こぶし》を握り、悔しさをかみ締めた。ここでキレたら、敵の思う壺《つぼ》である。
思いっきり深呼吸をすると、首を振った。それからぱぁーんと自分の頬《ほお》を叩《たた》く。
必死になって余裕を気取り、髪をかきあげ、腕を組んだ。
「わ、わたしだっていっぱいしたもん。というかね、されたの」
「へぇ。何回ぐらいですか?」
冷たい目で、シエスタが尋ねた。
「え、えっと……、まずは一回目。使い魔として契約するとき、キスしなくちゃならないの」
「契約じゃないですか。数には入らないわ」
シエスタになんなく否定され、ルイズの目が吊《つ》り上がる。
「じゃあ二回目! 竜の上だったわ! あいつったら、寝ているわたしに無理やりキスしたの!」
「無理やりですって! サイトさんがそんなことするわけないわ!」
「無理やりよ! だって、わたし寝てたんだもの!」
ルイズは得意になって、まくしたてた。
「あいつったらね、わたしが寝てるとすごいんだから! 隣でね、いっつもご主人さまのこのわたしのことじろじろじろじろじーろじろ、眺め回してるの。ベッドでも、テーブルでも、教室でも、どこでもよ? それも犬の目で! 涎《よだれ》をたらさんばかりの勢いで、見つめてるのよ? 身のほど知らずにもほどがあるわ! ばっかじゃないのって思うから、わたしこうだもん! ぷいっ! こんな感じよ!」
ルイズは、ぷいっ! と横を向くのを実演して見せた。
シエスタは、尾ひれをつけて言い散らかすルイズを冷ややかに見つめ、冷静に一撃をくわえる。
「どうして寝てらっしゃったのに、そんな細かく覚えてるんですか?」
ルイズは言葉につまった。
「〝無理やり?じゃないじゃないですか。抵抗できるのに、されるがままになってたんじゃないですか?」
図星である。でも、そんなことを認めるルイズではない。横を向いて、気まずそうにつぶやく。
「し、痺《しび》れて動けなかったの」
「何で痺れたの?」
「は、蜂《はち》に刺されて……。いけない蜂ね」
「適当な嘘《うそ》つかないでください!」
誤魔化《ご ま か 》しきれなくって、ルイズは次に行くことにした。
「三回目!」
しかし、三回目は確かルイズのほうからしたのであった。寝ている才人《さいと 》を見てたら、なんだかたまらなくなって、こっちからかましたのである。だからルイズは、飛ばすことにした。
「四回目!」
「ちょっと待って! 三回目はどうしたんですか?」
「なし!」
「なしってなんですか! ちゃんと説明してください! ずるいわ!」
四回目は確か、小舟の上であった。
あのとき何故《な ぜ 》キスしたのかいうと……、どこでも触っていい、なんてルイズが言ったらキスされたのであった。ルイズは悩んだ。細部まで説明したら、メイドにナメられる。したがってルイズは飛ばすことにした。
「五回目!」
言ってから記憶の底をさらったが……、五回目はなかった。誤魔化すために、ルイズはシエスタに指を突きつけた。
「そんなわけでございます! わたしは五回もキスされたんだから! いやぁね、全然好きでもないのに! 困っちゃうわ!」
目で殺す、と言わんばかりにルイズはシエスタをにらみつけた。
しかしシエスタもさるもの、発止《はっし》とそのルイズの視線を受け止める。
「わたしなんか、七回ですわ」
「はい?」
「一晩で、ですけど」
「じゃあ一回よ! それは一回! 太陽が昇ってから、沈むまでが一回だかんねッ!」
シエスタは、そんなルイズを哀《かな》しげに見つめた。なぜか、その瞳《ひとみ》に勝者の余裕が宿っている。
「冷静に聞いてくださいね。魔法使っちゃ、いやですよ?」
「使わないから言いなさいよ」
「あのですね」
「うん」
「舌、入れました」
ルイズは耳まで真っ赤になった。怒りで身体《からだ》が震える。
二人はしばらくにらみ合っていたが、同時にため息をついた。
しばらくして、ぽそりとシエスタがつぶやく。
「絶対、生きてますよね」
ルイズは俯《うつむ》いたが、すぐに顔をあげた。
「あんたが信じないでどうすんのよ」
「そうですよね」
そんな風にしんみりしていると……。
後ろから歓声が響いた。
「ん?」
振り返ると、人だかりができている。
「なにかしら」
近づいてみると、見物客たちの足元に、小さな人形がたくさん踊っていた。騎士、兵隊、亜人《あ じん》、グリフォン、そして竜……。どうやら演舞劇のようであった。
「|アルヴィー《小 魔 法 人 形 》?」
と小さくルイズはつぶやいた。
「アルヴィーってなんですか?」
ときょとんとして、シエスタが尋ねる。
「ガーゴイルの一種よ」
「ガーゴイル?」
「そう。ゴーレムなんかと違って、自立した意志で動く魔法人形。アルヴィーはその中でも、小さなものをいうの。ほら、学院の食堂の周りに小さな像がいくつも立っているでしょう? あれがアルヴィー。夜になると、かけられた魔法が発動して踊りだす……」
|アルヴィー《小 魔 法 人 形 》が踊る向こうに、大道芸人の姿が見えた。深くフードをかぶった綺麗《き れい》な女性であった。フードからは、長い黒髪が覗《のぞ》いている。彼女は身じろぎもせずに、踊る人形たちをじっと見つめている。
踊りは、闘いを模しているようだった。
一人の剣士が、暴れて竜やメイジをやっつけるたびに、見物客から歓声が沸いた。平民受けがいいように、剣士が活躍する筋書きのようだ。
竜を倒したところで、剣士のアルヴィーは見物客に向かって一礼した。やられ役のメイジや竜も立ち上がり、同じように観客に一礼する。集まった人たちは、次々にコインを投げて去っていく。シエスタもポケットから一枚の銅貨を取り出し、投げた。
すると……、二体のアルヴィーが、シエスタとルイズの足元に駆けより、ちょこんと靴の上に座り込んだ。
「あら、あらららら。これじゃ歩けませんわ」
シエスタはそっと手を伸ばす。
「いたっ!」
シエスタは小さな悲鳴をあげた。いきなり動き出した剣士人形のかまえた剣に触れてしまったのである。指が切れて、血が流れる。
「アルヴィーなんかに手を出すからよ」
と、ルイズは足を振って、人形を地面に落とした。
「行きましょ」とルイズはシエスタを促《うなが》し、テントへと戻っていった。
ルイズとシエスタの後ろ姿を見つめながら、フードの女性は笑みを浮かべた。
そっと、フードを持ちあげる。
額に古代のルーンが見えた。
ア|ル《人》ヴ|ィ《形》ーを掴《つか》むと、その額がかすかに光る。
シェフィールドであった。
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